『夜』
1961(イタリア/フランス)122分
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
(あらすじ)病床にある友人トマーゾを見舞った夫婦ジョヴァンニとリディア。トマーゾがもう永くないと悟った妻のリディアは一人病室を出て泣く。作家であるジョヴァンニは新作のサイン会に赴くが、リディアはその会場から抜け出し、ローマ市内や郊外を彷徨する。夕方、夫ともに帰宅したリディアは、夜は出掛けたいと言う。2人は連れ立ってクラブへ行って飲んだ後、富豪のパーティーに参加する。
ストーリーはある夫婦の半日ほどを描いているだけで、夫婦はそれぞれ、夫や妻とは別の男性・女性と関わるものの、決定的な事件は起こらず、何もないと言えば何もない物語である。だが、心の機微の描写がすごいというか、全編を通して息が詰まるような空気に満ちていて、とにかく密度が濃かった。DVDにあった解説に、『さすらい』について「ドキュメンタリー作家出身らしく、冷徹な目にうつる心の空間をえぐり取る。映像と噛み合ない会話をデータとして並べ、『どういうことになっているんだ?どうすればいいんだ?』と観客に疑問を突きつけ、謎解きを迫る」と書かれていた。確かに、ほとんど説明らしい描写はなく、男女の関係が映し出され、その間、例えばこの涙はどんな意味なのだろうと考えながら観て、最後に至り一応の解答のようなものは得られるが、もはやその解が合っていたかどうかはどうでもよくなっているような、そんな感じだったなと思う。とにかく面白かった。